総括

第7回うおのめ文学賞

2006年7月〜8月、第7回うおのめ文学賞を開催しました。

部門 作品タイトル(■選評) 作者 サイト名
短編小説部門 アンチ・アナストロフェ loiol underground agitation
掌編小説部門 あかいくつは、バレエに向かない 冬城カナエ しゃべるウサギ
ショートショート部門 ブロッコリーの惑星 ヒダリテ
詩部門 星屑の停車場にて ダーザイン えいえんなんてなかった
実行委員長特別賞 檻の中でダンス( よしぞー よしぞー堂
月下蘭・Aya-Maidz.奨励賞 片思い 架空少年
月下蘭奨励賞 ジェイムズ・スターリング空を飛ぶ 岡沢 秋 空想絵物語館FifthSeason
【選評】
■優秀賞
 
【短編小説部門】
「アンチ・アナストロフェ」loiol著

 短編小説部門は最終選考段階では、「ジェイムズ・スターリング空を飛ぶ」(岡沢 秋)、「アンチ・アナストロフェ」(loiol)、「檻の中でダンス」(よしぞー)、「一番近くて遠いのは」(みっきぃ★らんたん)、「クビツリプレイ」(山奈やませ)、「ナラズモモノミ」(天竺鼠)に絞り込んで選考した。
 「一番近くて遠いのは」は、魅力的な部分も大きいが、ストーリーとしてありふれた感が否めなかった。作品の重量感としては「クビツリプレイ」も捨てがたかったが、冒頭でのインパクト−携帯電話に納められた《僕の姉の、死体の画像だ。》が最後にそのインパクトを結びきらなかったのが惜しい。「ナラズモノノミ」は発想、着眼点、言葉の展開が面白かったが、奥行きに物足りなさを感じた。奥行きの物足りなさは「ジェイムズ・スターリング空を飛ぶ」も然りであったが、これは世代を越えて楽しめる作品であることから、月下蘭氏の奨励賞として評価したいと思った。
 「アンチ・アナストロフェ」はあくまでも「個」に絞り込んだ未来小説でありながら、閉塞感に陥ることもなく、自由な発想とこの世界に生きる者も共感し、実感できる想像力と描写力、リアリティは群を抜いていた。
 小説における想像力とは、「無」から「有」を作り出すこと以外に、「有」から「さらなる有」を作り出すリアリズムに則った創造も必要になる。描写における読者との心理状態の共有を道標に、丁寧に道を辿っていくことが大切である。この世界でたった一人だけ生き残ってしまったという現実の中で、誰かがいるかもしれない小さな希望の光を見いだしたとき、《とにかく人に会えるのが嬉しかった。声を出してコミュニケートしたかった。乱暴されても良かった。誰かに触れたかった。》という切実さがまさにその、「有」から「さらなる有」を導き出した一行である。それは凝りに凝った表現ではなく、当たり前の表現で、的確に過不足なく伝えているのだ。こうした丁寧な紡ぎ方が全体としての作品力を高めたと言っていい。(大江眞輝)

【掌編小説部門】
「あかいくつは、バレエに向かない」(冬城カナエ)

 掌編小説部門では、最終選考として、「あかいくつは、バレエに向かない」(冬城カナエ)、「海を見たい」(松原優一)、「ゼリービーンズのような・・・・・・」(きくまのり)を残した。「海を見たい」は映像としてとても美しく、描写が生きていることに対して評価しつつも、物語としてのインパクトに欠け、最後まで迷いを残す作品であった。「ゼリービーンズのような・・・・・・」は子供らしさが十分に発揮された作品であったが、少々こじんまりとしすぎてしまったのが、残念である。
 「あかいくつは、バレエに向かない」は、人間の多面性をうまく生かして、一人の人間像を4Dで実感できるものにしたすばらしさがあった。「あかいくつ」を履いた中年のやくざ。一方では非人間的な非情さを見せつつ、一方では可愛らしさすら感じさせる人物像。ある意味、バラバラに配置されているように見える聴取の中で描写をさせ、理屈抜きで人間の温もりを短い枚数で描いている。
 語る小説の形態では、とかく台詞回しにばかり気をとられるが、語りの中でいかに描写し、読者とイメージの共有をすることで行間に伝えるべきものを配置するかがポイントになることもある。本作品では、語りの中に語り手のもっているイメージをそれぞれ個別に描写しながら、一人の人物像という一点に集中させていった技術力がすばらしかった。(大江眞輝)


【ショートショート部門】
「ブロッコリーの惑星」(ヒダリテ著)

 ショートショート部門では、「薔薇を食べてはいけない」(ルーク)、「ブロッコリーの惑星」(ヒダリテ)、「あの夏の金魚」(今唯)を最終候補作として選考した。
 「薔薇を食べてはいけない」は、作者の持ち味である日常に潜む密かな恐怖を見事に描いているが、収束する段階で失速した感がある。「あの夏の金魚」は縁日の風景、夏祭りのちょっと汗の匂いのする腕と金魚すくいのドキドキするシーンの描写が秀逸。ただ、《あの夏の金魚たちは、今もきっと、この根の下に、遊んでいるのだろう。あれから何十回もの夏が過ぎた今も、ぼくがこれから死んでいなくなっても、ずっと空に咲く花の夢を見ながら。》に集約されてしまったのがもったいない。
 「ブロッコリーの惑星」は言葉を楽しんでいる作品である。言葉も日常も、自分という世界観も楽しんでいる。言葉を楽しむというのは、とかく無秩序になりがちだが、本作はきちんと構成された範囲内で、その範囲という枠を壊して拡大していく収束を成し遂げ、「君」という人物の味わいを表現している。言葉の宝石箱やぁにとどまらない魅力があった。というところだろうか。(大江眞輝)
 
【詩部門】
「星屑の停車場にて」(ダーザイン著)
文責 Aya-Maidz.
【最終候補作】「熱帯アメリカ」「ロシアパンを売る少女」「星屑の停留場にて」

 詩というジャンルは一方的に思ったことを文字に置き換えるものという誤解が多く、結果的にその主題を表現する(内面的なテーマを、外面的や感性的な形象として客観化するという意味)に至っていない作品が少なくありませんでした。簡単に言い換えるなら、作品を通して読者に伝えようという意志ではなく、一方的に投げかけて読者に分かってもらえることを期待するだけの作品が多かったということです。
 今回の選考では大まかに三段階に分け、一次は私(Aya-Maidz.)が、二次は一次通過した作品を大江が、最後に他の実行委員の意見を考慮しつつ大江と私の結論の調整という方法を採りましたが、私が担当した一次選考では上述の傾向を踏まえ、詩という文芸作品でよく使われるような技法にはあまりこだわらず“読みものとしての文章になっている”ことを最重視しています。
 その結果、一次選考では先に挙げた三編の他に「ある夕刻に」「片思い」「雨脚」を取り上げましたが、そこから更に「熱帯アメリカ」「ロシアパンを売る少女」「星屑の停留場にて」が最終候補作に至ったのは飛び抜けた描写の丁寧さでした。
 「熱帯アメリカ」はその中でも特に描写が緻密で、文字で描かれた光景がそのまま欠如もなく実際に視界に映し出された世界のように浮かび上がってくるよう、その視界に映り込んだ人々の身振りや息づかい、街並、そして空気、読み入れば読み入るほどに感じるようなリアリティは十分。
 「ロシアパンを売る少女」では主人公となる少女と彼女がパンを売っている街頭とのコントラストを意識した描写が特に印象的で、そのコントラストが生み出す陰陽によって主題を際立ち、少女の質素な身なりだけでは分からない清楚さやある種の気高さがよく表現できています。
 今回優秀賞となった「星屑の停留場にて」は主題がすごく内面的なだけに、主人公像がイメージできないと読み進めるうちに混乱するような記述が点在しているのは確かですが、一時的な顕在的感情ではなく、内面的/潜在的な心理描写に極めて重みがあり説得力に満ちている。
 “まず丁寧に文章を書く”という基本的なことを、うおのめ文学賞詩部門優秀賞という形で伝えるという意味では最終候補作三編はいずれもほとんど遜色ありません。
 しかし「星屑の停留場にて」における様々な手法(少女に置き換えられた理想/表向きの意識・事象と内面の意識のザッピング/思考・イメージの飛躍と主題への集約化など)により作品の本来の主題だけでなく、“思ったことを単純に言い切ることばかりが伝達する手段ではない”ことを作品を通じて伝えんばかりの、詩に対する筆者の姿勢を最終的に大きく評価しました。(Aya-Maidz.)


■実行委員長特別賞
「檻の中でダンス」(よしぞー著)

 2作品の枠をもった本賞であるが、今回は一作品を選出した。
 「檻の中でダンス」は、冒頭では、読者をうんざりさせかねない、各エピソードの導入を織り交ぜつつ、一つ一つが乱雑でありながら、計算されて一つの線になっていき、物語の起伏を作っている。創作という行為の中で、作者が増幅していく感覚を体感することができた。高い技術力が伺える作品であり、実行委員長特別賞にふさわしい作品であると確信し、選出した。(大江眞輝)

■月下蘭・Aya-Maidz.奨励賞
「片思い」(架空少年著)

 候補作として真っ先に「片思い」が挙がりました。タイトル通りの共感を呼びやすい主題選択とその主題を無駄にしない分かりやすさや、勢いだけで書き綴るだけでない読み物としての詩へと昇華させようという工夫が他部門の選考委員のみなさんの間でも評価されました。
また、寸評でも取り上げた通り作品として粗さが多少残ったところはありますが、そうした技術面は他の筆者の作品を読んだり書き続けていくことで解消されていくので、そうした過程を経てより大きなステップを踏み出されるだろうことを、この作品からは期待させてくれることからも今回「片思い」を奨励賞としました。(Aya-Maidz.)

■月下蘭奨励賞
「ジェイムズ・スターリング空を飛ぶ」(岡沢秋著)


 国籍不明の愛すべき物語。
 文章にクセがないながらもリズム感がよく、子供に読ませたいと思わせる力を持った作品です。
 白骨のくだりも不気味さはなくなんとなくユーモアを感じました。
 この町の物語をシリーズで読みたい、作者のこれからの活躍を切に願い、奨励賞に選出しました。(月下 蘭)


うおのめ文学賞