総括

第6回うおのめ文学賞

2005年7月〜8月、第6回うおのめ文学賞を開催しました。

部門 作品タイトル(■選評) 作者 サイト名
短編小説部門 Sakura Arwen_Eriko Imradris
掌編小説部門 紫陽花 Izuminaoayu
ショートショート部門 対決 せぷ この世界の憂鬱と気まぐれ
実行委員長特別賞 該当作なし(
【選評】

【短編小説部門】
「Sakura」Arwen_Eriko

最終候補作「サラの店」「ドライブ・マイ・ライフ」「篭女」「雑踏のほとりで」「天国のラジオ」「Sakura」「海に融ける月」
その他「月下に想う」「会えただけでよかった」「天狗山−異形闇伝」

最終的には、「Sakura」「篭女」「ドライブ・マイ・ライフ」に絞り込んでの選考になった。
「篭女」は作者の濃厚で安定した筆致で、最後まで読ませる力があり、インパクトと迫力のある作品であったが、前作「八宵」と比した時に、作者自身がこの作品世界を脱却し、別の可能性を見せて欲しいと期待が高かっただけに、目新しさとチャレンジ精神が感じられなかったのが残念である。これは、「海に融ける月」にも同様に言えることである。ただ、「海に融ける月」は作者の前作に比べ、カメラがグッと引かれた状態で描かれているのが好印象で、タイトルや背景に相乗効果をもたらしている。
 「ドライブ・マイ・ライフ」も、冒頭から読者を安心させて読める文章の安定感があり、両親の離婚、リストカット、薬物依存、性的虐待、妊娠というインパクトのある題材を扱えるだけの技量を持った作者ではあるのだが、章立てされたシーンが枚数とその作品中でのエピソードの位置づけ等が逆に細切れ感と時間の経過の早さに飲まれてしまった格好になっている。綿密に計画を立てて描かれたことがわかる作品だけに、50枚では描ききれなかったものを感じてしまう。特に、カマキリ、ハリガネムシに関する記述、トンネルという場所、さまざまなキーワードがラストへと向けてきちんと用意され、配置されているにも拘わらず、それらのキーワードが互いに絡み合うという物語の起伏に乏しくなってしまったのが残念である。
「天国のラジオ」は、父子家庭のこれから先を案じる父親の気持ち、母親を知らない娘の切なくもいじらしい感情が綺麗に描かれている。娘との暮らしと天国とをつなぐラジオからよくわからない外国語が聞こえてきたあたりは、その距離感がうまく象徴されていて、面白く感じた。筆力と情感をもった書き手なので、父親のさらに強い葛藤を描けるのではないだろうか。特に、仕事を持っている男親なので、仕事に集中できないいらだち感や、男親にはわからない娘の気持ちに対する焦り、妻の早すぎる死に対しての整理できない気持ちなどを具体的かつ象徴的なエピソードを交えて物語に起伏を持たせれば、よりドラマティックに仕上がったのではないだろうか。
「サラの店」は迫力のある文章で、作者の情熱を感じる作品だった。ただ、全体が説明調で、どこか物足りなさを感じた。空洞だった主人公の生活が、文章にもよく出ている。それだけに、空洞感の構成的なライトアップを考えていくべきかもしれない。この迫力のある書き手のこれからの作品を楽しみにしたい。
 「雑踏のほとりで」は街の喧噪がざわざわと耳に迫るようでいて、空虚な主人公の焦燥感が描かれている、絵のような作品。携帯を拾ってくれたヒロとの出会いから彼の音楽に触れるまでの経緯が、雑踏に埋もれすぎてしまったのが多少残念である。
 最終的に「Sakura」に決定したのだが、この作者は以前の本賞でクロムウェルといううさぎを見事に描いた作者である。どこか曖昧ではあるものの、その曖昧さの浮力を巧く利用して物語を紡いでいる。祖母が実は存在しなかったというラストに向けての伏線は確かに弱いかも知れないが、その弱さ故、主人公自身の内面と向き合った作品に仕上がっている。描写の表現は有り体であるといえば有り体であるような、それでいて、作者自身の呼吸感をリズムにし、独自的な視点を感じさせている。主人公が鬱状態(?)になった街での暮らしの概略は描かれているが、具体的なものが何もないのが残念で、その濃淡を描くことで、夜桜の内から出る光がもっと鮮明になるように思う。「桜」という題材は、実は非常に奥深い題材である。桜は大地に深く根付き、また、丈夫で生命力の強い木である。それでいて、一時の幻のような花を咲かせ、自然の風に身を任せて散る。そうした、「桜」という題材をきちんと見据えて描けているのが、すばらしい。


【掌編小説部門】
「紫陽花」Izuminaoayu
最終候補作品「紫陽花」「僕の青い四角錐」「メロンの季節」
「僕の青い四角錐」は絵画的な作品で、楽しんで読むことが出来た。ピエロが他人の幸せの形をジャグリングするところなど作者独自のセンスも感じられる。ただ、その絵画を読者に分からせよう、いや、分からせまいという作者の葛藤が出てしまい、「四角錐」「円錐」などという名詞に頼ってしまったのは、もったいない。
「メロンの季節」はノスタルジックな雰囲気が出ていて、祖父を思う家族の愛情がほほえましく描かれているのだが、「家族」という普遍的なものではなく、主人公自身が祖父母に対してどのように捉えているのか。メロンというキーワードは思い出だけを語らせるのではなく、祖父母そのものの人生を、また、主人公そのものの人生を語らずに語る良いキーワードであるので、それを突き詰めて描き出してほしい。
「紫陽花」は総括でも書いたように、短編小説としての掌編小説を完成させている作品である。収束感に物足りなさを感じるのは否めないが、基本を身につけたこれからに期待を感じる書き手である。


【ショートショート部門】
「対決」せぷ
最終候補作品「対決」「ポケット」「波」
 最終候補に残した三作品は、いずれもそれぞれのショートショートの特性を活かしている作品であるが、特に、「対決」は「ジキルとハイド」的作品の典型であることは否めないのだが、濃密な文体が、密室のその舞台を見事に演出している。文章そのもののリズムや濃厚さが作品を演出するということも意識して描かれているのではないだろうか。
「波」は文章、構成の拙さを感じるものの、作品の核のようなものをきちんと見極めて描いていることがうかがわれ、好感が持てたが、もう少し、作品を練る余地がありそうだ。


■実行委員特別賞
実行委員長特別賞候補 該当作なし
 実行委員長特別賞の候補として、「Sakura」「海に融ける月」「篭女」「会えただけでよかった」をノミネートした。「Sakura」は優秀賞を授賞したので外すとしても、その他はいずれも、印象に残る良い作品ばかりだけれども、作品の中でのチャレンジを感じられなかったため、該当作なしとした。

うおのめ文学賞